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Utpressing for nybegynnere 初心者のゆすり

ノツウェー映画 (2011)

ヨハン・ティーヌス・リンギリャン(Johan Tinus Lindgren)が主演し、脚本も手がけたサスペンス&恋愛映画。父の手術代を自分で用意しようと決心した15歳のシーモンは、プロの悪党を相手に、銀行強盗の犯人だとバラすからと脅し、お金をせしめようとする。その結果、シーモンは逆に捕らえられ、監禁され虐待を受ける。ある程度大きくなった少年の誘拐監禁としては、「The Abduction of Zack Butterfield(ザック・バターフィルドの誘拐)」(2011)があるが、奇しくも同年に作られたこの映画の方が、遥かに暴力的で残忍だ。それが、どう見ても15歳以下にしか見えないヨハン自らの脚本によるとは信じ難い。映画のもう1つの軸は、シーモンとガールフレンド、クリスティーンのヤング・ラブだが、最初から「妊娠」という言葉が出るほど、2人の関係は緊密で、これも、15歳とはとても思えない。それを、2人の際どい会話を含めてヨハン本人が書いているとは、恐るべき少年だ。ただし、脚本家が未熟なせいで、大きな穴が幾つもある。従って、映画を観ていても、浮かぶのは疑問符だらけで、釈然としないのもまた事実。だからIMDbが5.3と低めなのはやむを得ない。だが、若く勇気ある(かなりマセた)才能に敬意を表して、そこは由(よし)としよう。

4年前に妻を亡くした父親と、母を失った15歳の息子シーモンの2人暮らしの寂しい家庭。父は、妻の死後、何事にも投げやりで、食事もインスタント食品か外食ばかり。母を慕うシーモンとのコミュニケーションもうまくとれていない。4年目の母の命日も、父は意図的に妻の話題を避け、墓地に花を供えに行ったのもシーモン1人。そのシーモンには、クリスティーンというガールフレンドがいて、少し前から肉体関係を続けている。ある夜、シーモンに電話がかかってきて、父が救急車で入院したと言われる。医者から聞かされたのは、父の深刻な病気と、手術に必要な20万クローネという、シーモンにとっては大金。15歳という年齢のため、銀行から借金もできない。そんな時、融資を頼みに行った銀行で銀行強盗に遭遇し、携帯で写真を撮影。身元を割り出して、恐喝し、父の手術代をせしめようとする。しかし、相手の方がうわてだった。シーモンは逆に強盗オーヴに捕らえられ、部屋に監禁され、両手を縛られ、口に粘着テープを貼られた状態で足首を金槌で砕かれそうになったり、ボールギャグを口にはめられ、剪定ハサミで足指を切り落とされそうになったりした挙句、最後には、剪定ハサミで乳首を切り取られ、次は殺すと宣告される。そんなシーモンを救ったのは、一度は、妊娠したと早とちりしてシーモンに嫌われたクリスティーン。それに感謝したシーモンは、クリスティーンとの永続的な愛を誓う。そして開催される派手なシーモンの誕生日パーティ。そんな場でも、2人の愛の営みは続く。

欧米のティーンは、15歳を越えると、ほとんど青年と同じように見えるケースが多い。しかし、ヨハン・ティーヌス・リンギリャンは、童顔のせいか、あと2週間で16歳という映画の年齢設定にはとても見えない。可愛さの残る、整った顔立ちの少年だ。その少年が、上にも書いたように、この映画の「残酷で、セクシー」な脚本を書いている。ヨハンは、これ以外にも、3本の映画に主演している。日本でもDVDが出ている『Julenatt i Blåfjell(レジェンド・オブ・シルバー/借りぐらしの妖精)』(2009)、とその続編『Blåfjell 2 - Jakten på det magiske horn』(2011)、そして、『Vennlige mennesker』(2013)だ。2番目はこの作品と同年だがIMDbでは本作より後の作品になっているが、顔はあどけない(下の写真)。一方、3番目はそのわずか2年後だがまるで大人(もう1つ下の写真)。似ているのは、粘着テープを口に貼られているところだけ。
  
  


あらすじ

2011年1月、オスロ郊外のアーケル川のほとり。辺りは一面の雪。歩いている少年の携帯に通話着信がある。「はい、シーモンです」(1枚目の写真)。「やあ、オーネ・バリギレン(Arne Berggren)だよ」。バリギレンは、1960年生まれの小説家、劇作家、映画やTVの脚本家、作詞家、ロック・ミュージシャン。映画に出ているのは本人だ。ただ、シーモンには名前を言っても通じなかったので、「『鯨(Hvaler)』なんかを書いてる」と付け加えるが〔『鯨』はバリギレンの代表的なTVのシリーズ〕、それでも全く通じない。そこで、「ルーアから脚本 受け取ったかい?」と訊く〔ルーア・ウータイグ(Roar Uthaug)は、2016年6月に公開された『THE WAVE/ザ・ウェイブ』の監督。映画の最後の方で、本人も登場する〕。「はい、今、ここに持ってます」。そして、バラバラになった紙の束を取り出して表紙を見る。そこには、この映画の題名『Utpressing for nybegynnere』、その下に「av Arne Berggren」、さらに下に「Bearbeidet av Roar Uthaug」と書かれている。映画監督Roar Uthaugの意向に沿って脚本家Arne Berggrenが書いたという設定だ。後述するが、この映画脚本はシーモンの実体験に感動した監督が自らメガホンを取りたくてバリギレンに脚本を依頼したという筋書きにのっとったものだ。映画の本編は、「半年前」ということで、この冒頭場面が終わるとスタートする。しかし、誤魔化されてはいけない。この映画の監督は別人のMarius Sørvikで、脚本は先に述べたようにシーモン本人なのだ。シーモン役のヨハン・ティーヌス・リンギリャンは、年齢不詳だが、どう見ても15歳くらいにしか見えない。その年で、脚本・主演というのはすごいことだ! だが、なぜ、別の監督、脚本家という設定にしたのかは、ヨハンにしか分からない謎だ。本筋に戻ろう。バリギレンは、これはあくまで第一稿なので、「気に入らないところや不明瞭なところがあれば、手直しするつもりだ」と断った上で、「信じられないくらい楽しかった。君が巻き込まれたことに夢中になったよ。早く一緒に仕事がしたい」と賞賛する(3枚目の写真)。有名な作家にこの言葉を言わせたかったのか?
  
  
  

ここからが本編になる。「半年前」「首都のどこかで」と出たあと、ハンチング帽をかぶった中年男が、人気(ひとけ)のない所で待っていると、そこに1台の車が乗りつけ若い男(オーヴ)が降りて来る。この映画の悪役だ。男:「ブツ あるのか?」。オーヴ:「ブツはある。後は金だ」。男が金を渡すと、オーヴはトランクを開け、白い粉の入った袋を渡す。バッグの中を覗いた男は、「青いのは何だ?」と訊くが、「別に」という返事。しかし、オーヴが運転席に釣を取りに行った隙に、男は青い袋を盗んでポケットに入れる(1枚目の写真、矢印)。次のシーンは、ゴルフ場のクラブハウスのレストランで、クラブのオーナーで、かつ、マフィアのボス的な父親が、息子のオーヴと2人きりで話し込んでいる。「我々の特別な輸入品はどうなっとる?」。「うまく行ってるよ。でも、一つだけ問題が。一包み消えた。盗まれたんだ」。「オーヴ、困った奴だな。方(かた)はつけとよ。やり方は分かっとるな?」(2枚目の写真)。
  
  

フログネル地区。オスロで最も高級な19世紀の低層アパートが並ぶ住宅街だ。シーモンが、黒い革のソファに横になっている。独白が入る。「僕、シーモン・バリグラン。15歳。あと2週間で16歳。パパがいないと、ちょっぴりビールを飲む。味見にね」(1枚目の写真)「時には、2・3本空けちゃうけど」。しかし、次のシーンでは、悪酔いして便器に屈みこんで吐いている。可愛いものだ。朝、シーモンと父は キッチンテーブルに座り、父は新聞を読み、シーモンはヨーグルトを食べている。「ママが死んでから、今日で4年だね」。「また、強盗にやられた。DNB銀行だ… そうだったか?」。「うん」(2枚目の写真)。「あまり考えても始まらんぞ」。「毎日考えた方がいいよ。パパも」。「そうかもしれん。だがママも、ほどほどにって思ってるぞ」。「寂しくないの? 僕は、毎日 話しかけてる。この4年間ずっと。パパは考えるなって言ってきたけど」。父の返事はない。シーモンは「学校に行くよ。送らなくていいから」と言って席を立つ。父が言ったことは、「ヨーグルトくらい片付けとけ!」。シーモンが何もしないと、カップとスプーンをシンク(?)に向かって投げ捨てる〔ガチャンと音がするが、どこに投げたのかは見えない〕。すごく生活感のない光景。父は食事をしたのか? シーモンの朝食はヨーグルト1個だけなのか? そして、父に定職はあるのか? 定職があるなら、なぜ「学校に送る」という選択肢があるのか? 定職がないなら、なぜ高級住宅街に住めるのか? このことは、後で出てくる父親の手術代に関して一番に問題となる疑問点だ。学校の帰り(たぶん)、シーモンは墓地にいる。母の命日なので花を供えに来たのだ(3枚目の写真)。そこにガールフレンドのクリスティーンから電話が入る。「今夜来るんだろ?」。「ええ」。「じゃ、その時」。「いいわ、愛してる」。その頃、フォーカス銀行本社〔デンマーク銀行の子会社〕では、オーヴが呼び出され、監視カメラの映像(勤務中にオナニーをしていた)を見せられる。オーヴは「スティーグ、クビにしなくていい。辞める。こんなトコうんざりだ」と言うが、上司は、「悪いな、君のことは上にあげる。でないと給料を払わんといかん。そんことはしたくない」とクビを言い渡す。
  
  
  

その日の午後、父が、「シーモン、お前の叔母さんを迎えに行ってくる。彼女も今日が4年目だって知ってる」と話しかける。「ママのお墓に花を供えてきたよ」。「偉いぞ。だが、パパはもう行かないと。10分後に会う約束だ」。「パパ、僕たち また家族みたいになれるかな」。「何言ってる、家族じゃないか。お前とは ずっと一緒だ」(1枚目の写真)。そして、父は叔母を迎えに出かける。叔母を連れて戻って来た父に、シーモンは「パパ、絶対、胃の検査しないと」と言う。いきなり、何の説明もなく発せられる言葉だ。「タイ料理のせいだ。夜は食べないようにしよう」。その時、巨大な冷蔵庫を開けた叔母が大きな声を出す。「卵が1個もないじゃないの! あなたらしいわね。卵料理を作りに来ることぐらい知ったでしょ」。「卵はあると思ったんだ。シーモンがハロウィーンで使わなきゃな」。責任の押し付けにシーモンも反論。「ハロウィーンは3ヶ月前に終わったよ」。叔母は「シーモン、卵を買ってきてもらえない?」と頼む。素直に買いに行こうとするシーモン。「一緒に、ゴミ出しも お願いできる?」。素直にゴミ入り紙袋を受け取ったシーモンに、叔母は「こんなもの食べてるの?」と訊く。「可哀想な子ね」。シーモンが買い物に行っている間、叔母はワッフルを作る準備に入る。父が「これ使ったらいい」とポリ容器を渡す。「何よ?」。「ワッフル入れろよ。たくさんできるんだろ」。「要らないわ。今日のうちに食べないと。明日までもたない」。そこにシーモンが帰ってくる。「良かった。卵が手に入ったわ」。テーブルに肘をついてテーブルの上の散乱状態を見るシーモン(2枚目の写真)。「僕、部屋に行ってる」。「夕方まで、こもってちゃダメよ」。父は「一晩中だって、いたけりゃ いていいんだ」と変に擁護する。ここで場面は一瞬、ゴルフ場に切り替わる。オーヴと父が2人でコースに出ている。「お前のことを自慢に思ってるぞ。銀行をクビになったことなど どうでもいい」。そして、「隠れミノを失くしちまった」と残念がる息子に、「そんなもの要らん。お前は 犯罪者に専念すればいいんだ」と悪党のボスらしい助言。アパートでは、ワッフルが完成。食べながら、父は「もうワッフルは 作らなくていい」と冷たい言葉。実は病気のせいで、食が進まないのだ。その時、訪問客が。約束通り、クリスティーンが来たのだ。父:「真っ直ぐ部屋へどうぞ。だがまずノックだ。何してるか分からんからな」。シーモンの部屋に入ったクリスティーン。「困っちゃった。明日は母の日なのに、何プレゼントするか決まってないの」と口に出し、今日がシーモンの母の命日だと思い出し、「ごめんなさい。悪いこと言っちゃったわね」と謝る。そして、「いいよ、君のせいじゃない」と言われ、「抱き合わない?」。「これって、罪ほろぼし?」。「そうかも」(3枚目の写真)。その先、4人がどうなったかは分からない。ここが、脚本の大きな穴の1番目。
  
  
  

というのも、次のシーンでは、シーモンが1人で黒いソファに座り、足をガラステーブルに投げ出してTVを見ている。下半身はパジャマだ。その時、電話がかかってくる(1枚目の写真)。いったいこれは「いつ」なのだろう? クリスティーンが帰った後であることは間違いない。しかし、父と叔母はいつどこへ行ったのか? 電話の内容は、「シーモン君、夜になって救急車が君のお父さんを連れてきた。何か知っているかね?」というもので、推測だが、家庭医からのものだろう。というのは、すぐに場面転換があり、シーモンの独白で「僕はペー・ウーケスタッドって名前の医者に駆け込んだ。永年の家庭医だ。彼は、パパは病気で海外での手術に20万クローネ〔250万円〕必要だと話した」と入る(2枚目の写真)。こんなことを この医者が知っているということは、救急車が向かった先はこの医者しかない。しかし、いつ? もし、夜にシーモンのアパートに行けば、当然シーモンにも救急車の音は聞こえる。ということは、夜、父が叔母を送っていった先で容態が急変したのか? それに、ただの家庭医が「海外での手術に20万クローネ」とまで断言できるものだろうか? さて、シーモンの独白は続く。「叔母には会いにいかなかった。こうなったのも叔母のせいだから。僕1人で何とかしないと」。そして、シーモンは口座のある銀行に電話をかける。「シーモン・バリグランです。ノルデア銀行ですか? 大したことじゃないんですが、20万クローネ借りたいんです。口座番号は150274。15歳です」(3枚目の写真)。しかし、年齢を言った瞬間、電話は切れた。ここで2つ目の大きな「穴」。250万円といえば、今や、世界一リッチな国の1つノルウェーの人にとって大した額ではない。しかも、2人は高級住宅地に住んでおり、アパートも立派だ。父親に貯金がないとは思えない。それなのに、なぜシーモンが一人で20万クローネを作らなければならないのか? 父親が働いていれば会社に電話をかけて相談すれば済むことだ。考えられる唯一の可能性は、父が失職している場合だ。それでも、こんなアパートに住み続けられるということは、蓄えがあることは間違いない。この映画の題名は、『初心者のゆすり』。シーモンが崖っぷちに立たされて、20万クローネを用立てするため「ゆする」わけだが、その理由があまりに薄弱で現実性に乏しい。これは脚本家が15歳であることに起因するものなのか?
  
  
  

シーモンは、市内のニーダウンにあるフォーカス銀行へ融資の相談に行く。シーモンが相談員のテーブルに座ると、独白が入る。「新たな試みだ。僕はお金を借りにフォーカス銀行に行くことにした。状況を説明すれば ひょっとして… 子供が困っているのを見て 助けないほど無慈悲なんてこと あるだろうか?」(1枚目の写真)。そして、シーモンが担当の女性行員に打ち明ける。「実は、お父さんが死にそうで、もしすぐにお金が手に入らないと、死んじゃうんです。お金は手術代に使います」。「お名前は?」。「シーモン・バリグラン」。「証明するものは お持ちですか?」。シーモンがカードを渡すと、「ハンデルス銀行のですね」と言ってコンピュータに読み取らせる。その結果、「まだ16歳になってないのね。ビールも買えないじゃない」と言って、カードを突き返す」。頭に来たシーモンは、「何だよイジワルだな。15じゃダメかよ」と言って席を立つ。その時、銀行に強盗が入って来た。「全員、床にふせろ!」と拳銃を構えて大声で命じる。全員がふせるが、別室にいたシーモンだけが立っている。強盗〔実は オーヴ〕は、部屋に入ってくるとシーモンの額に銃口を突きつけ、「腹ばいになれ」と命じる。シーモンは おとなしく言われた通りにする。次に、強盗は女性に向かって「あり金全部このバッグに入れろ」。ここが、オーヴのお粗末なところで、かつて自分が勤めていた銀行の業務内容を全く理解していない。女性行員は、「当行は投資相談専門の銀行で現金は置いていません」と答える。「お前の持ってる金をバッグ入れろ。さもないと歯を吹き飛ばすぞ」。女性の財布にあったのはコイン2枚だけ。その間に、シーモンは携帯を取り出して、犯人をバッチリ撮影する(3枚目の写真)。何とも間抜けな強盗は、ロビーにいた客から所持金を巻き上げただけで去って行った。
  
  
  

次のシーンはシーモンのアパート。お金が借りられなかったシーモンは泣いている。クリスティーンが「シーモン、2人で何とかしましょ」と慰めるが、「どうやって? 僕、孤児になっちゃうんだ!」(1枚目の写真)。クリスティーンは、「あのね… ううん忘れて…」と口ごもった後で、「写真の男に電話をかけて、お金を寄こせって言ったらどうかしら?」と提案。シーモンが「悪くないぞ。ひょっとして…」とその気になると、クリスティーンは「やっぱり 忘れて」と自分の案を打ち消す。しかし、シーモンは「それ、すごくいい案じゃないのかな」と断然乗り気になる。そして、1人で下町の電話ボックスまで行ったシーモンは、オーヴに電話をかける。「おい、そっちはオーヴかい?」と話す場面だけがあり、すぐにシーモンとクリスティーンのシーンに変わる。クリスティーンは、自分が言い出したことだが、「危険すぎるわ」と不安そうだ。「危険だって、どうだっていい! 僕が心配する家族は、世の中に1人しかいない。パパが死んだら、僕は孤児院行きだ」。クリスティーンは、「ここに1人でいちゃダメ。私の部屋にいらっしゃい」と勧める。この電話の部分が、脚本の最大の欠陥。シーモンは、サングラスをかけて変装した強盗の写真から、それがオーヴだと(面識もないのに)どうして分かったのか? この最大の謎が全く説明されないまま、シーモンはオーヴに電話をかける。次の場面は、映画の最初と同じゴルフ場のクラブハウスのレストラン。オーヴと父親がまた話し込んでいる。「俺から金を脅し取ろうとしてる奴がいる」。「何を握られたんだ?」。オーヴはシーモンに関する資料を見せる。相手が15歳の少年だと知った父親は、「まだガキじゃないか。脅すだけにしておけよ。暴力はなしだ」と諭す。オーヴは「了解」と答え(3枚目の写真)、父親は「うまくやれよ。でないと困ったことになるぞ」と釘を刺すが、オーヴには糠に釘だった。
  
  
  

クリスティーンの部屋にシーモンがやって来る。「やあ」。「食事 作ったわよ」。「シェルでハンバーガーかと思ってた」。クリスティーンは、そのまま部屋に入ろうとするシーモンに、「靴 脱いでよ」と要求する。部屋に入ったシーモンは、「児童保護局が捜してるのに、こんなトコにいるなんて、カッコいいな」と話す。クリスティーンは、「2人だけなんて新鮮ね。何でも好きなことができるもの」。「そうでもないよ。靴をはいてちゃいけないし」。「ご親切に」。「行儀よく、だろ」。「失礼ね」。「さあ、どうかな」。雲行きが怪しくなりそうだったが、次のシーンで2人は家具の前で熱烈なキス(1枚目の写真)。そのまま、クリスティーンはシーモンをベッドに突き飛ばす。シーモンはすぐにシャツを脱ぎ、その上にクリスティーンがのしかかる(2枚目の写真)。そして、クリスティーンが上に乗ったままのセックス・シーン。いきなりクリスティーンがシーモンの頬を叩く。「私が先にいくわ」。「いいよ」。コトが済んだ後で、並んで横になった2人。クリスティーン:「すてきだった!」。シーモン:「君にはね」。「あなたも良かったんでしょ? 何が言いたいの?」(3枚目の写真)。「分からないよ。だって、君、すごかったもん」。「何よそれ」。「でも、君は満足したんだろ?」。「一方的すぎた?」。シーモンはそのまま布団にくるまって寝てしまう。満足度の低かったことが分かる。
  
  
  

翌日、2人は、オーヴに電話しようとしている。シーモンが携帯を出して、電話しようとするが、「ちょっと自信がない」と言って躊躇すると、クリスティーンは「なら、私がやるわ」と携帯を奪い取る。そして、番号を押して、相手が出ると、「もしもし、オーヴ? 明日 お金のことで会いたいんだけど」と話す。シーモンが邪魔しようとするので、手で口を塞いでいる(1枚目の写真)。「いいわね」「ううん、シーモンは今いない」「いいわ、その時会えるじゃない」。通話が終わり、諦めたシーモンに意気揚々と「終わったわ。簡単だったでしょ」。この女性、何かにつけて積極的だ。次のシーン。クリスティーンがトイレに長い間入っている。「クリスティーン?」。「何か用?」。「どうかしたんかい?」。ドアを開けて出てきたクリスティーンが、「妊娠しちゃった」と、衝撃的な発言をする。思わず、「は?」と聞き返すシーモン。「今、テストしたの」。「冗談だろ?」。「いつかは起きるって思ってた。私は悪くないわよ」。「君は悪くないって? 何 言ってんだ。赤ん坊なんか欲しくない。どうなるんだよ。赤ん坊が生まれちゃったら」。「私のあそこに 何もつけずに入れる前に、考えるべきだったわね」。「ピル飲んでると思ってたんだ」(2枚目の写真)。15歳とは思えない会話だ。自分で演じることが分かってて書いたのだから、なおすごい。2人の会話はなくなるが、映像で、最初はケンカし合い最後には抱き合う姿が、2人の間の固い愛を強く印象付ける。しかし、翌日、クリスティーンがもう一度自分で検査して、今度は陰性の結果が出て、ほっとする〔シーモンは知らない〕。しかし、普通、妊娠検査薬は受精後2週間程度しないと判定はできないので、クリスティーンの検査は2回とも意味がないことになる。一方、その前に自分のアパートに戻ったシーモンは、自分が父親になることを考えると、不安で寝付けず、キッチンに起き出して悩んでいる(3枚目の写真)。
  
  
  

シーモンは待ちきれずに、クリスティーンのアパートに行く。ノックの音がして、2重ロックの鋼鉄ドアを開けるとシーモンがいる。ここで初めてドアの外が映るが、外は、貧弱なアパートの廊下で、別の部屋のドアが並んでいる。ということは、クリスティーンは1人暮らしなのか? ここもよく分からない部分の1つ。15歳の娘が1人暮らしをするものだろうか? 中に入ったシーモンは、「行くトコなくて」と言い、2人は抱き合う。次のシーンでは、シーモンはパジャマパンツだけでベッドに座り、クリスティーンにタオルで濡れた髪を拭いてもらっている〔シャワーを浴びた?〕。「あなたって、ハンサムね」。「そうかな」。「これから何するの?」。「さあ… 君、料理する?」。「なんで?」。「君、女だろ」。この生意気な言葉に、シーモンは押し倒されるが、それでも2人ともニコニコしているので、ただの冗談だと分かる(1枚目の写真)。子猫がじゃれ合っているような感じだ。この辺り、シーンが細切れで、前後関係が分からないので、困ってしまうが、その典型が次の場面。場所はシーモンのアパート。映画の最初に出て来た「オーヴから麻薬を買った中年男」が部屋に入って来る。「ベッドの上で試してみたいだけなんだ」。男は1袋、投げ出す。「こんなに要らないよ。5か10グラムでいいんだ。男は、「もっと強いのがある。それだと10グラムだ」と言って、オーヴから盗んだ青い袋を渡す。「それでいいよ。高いの?」。「1500〔=18000円〕。だけど、何歳なんだ?」。「何で訊くの?」。「12歳以下には売らないことにしてる」。「僕は15歳だから問題ないだろ」(2枚目の写真)。「それ、強いぞ」。「どうやって使うの?」。1人になったシーモンは、教えられたように、板の上に白い粉をまき、紙の筒で鼻から吸い入れる。初体験なので思わず顔をしかめた後、ボーッとなる。ここでの疑問は、①なぜ急に麻薬をやるつもりになったのか? ②売人をどうやって見つけたか? の2点。①については、クリスティーンから「妊娠陰性」を教えてもらっていなくて、現実を忘れたいと思ったのかもしれない。因みに、この売人は、その後すぐオーヴにより、青い袋を盗んだ件で制裁を受ける(殺された?)。麻薬を初めて摂取したシーモンの部屋には、トイレットペーパーが転がり、ヌード雑誌が散らばっている。カメラがベッドの上を捉えると、そこには雑誌に頬をつけ、だらしなく口を開けたまま寝ているシーモンの姿が(3枚目の写真)。前後不覚になってダウンしたのだろう。ベッドから起き出し、シャワーを浴びたシーモンは、クリスティーンに留守録を入れる。「やあ、クリスティーン。こちら シーモン。僕らの関係について考えてきたんだ。君と付き合ってて妊娠しちゃった。僕には耐えられない。人生、こんな年で、父親になるなんて泣きたくなるよ。お互いもう一度見直そうよ。愛はアルコールみたいなもんだ。溺れすぎると、ロクなことにならない。連絡入れてよ。話し合おう。じゃあね」(4枚目の写真)。ずい分勝手な言い分だと思うが、①クリスティーンがリードし過ぎる、②お陰で、できちゃった、という不満がこんな電話をかけさせたのであろう。
  
  
  
  

映画は後半に入り、事態は一変する。アパートに戻って来たシーモンの後をオーヴをスコップを持ってつけてくる。それに気付いたシーモンはエレベータに飛び乗って逃げるが、降りた先で捕まってしまい、「助けて」と言いかけた口を手で押さえられ、「俺が分かるか?」と訊かれる(1枚目の写真、矢印の先はスコップ)。首を振るシーモン。「見たはずだ」。そう言って後ろ向きにすると、スコップで後頭部を叩いて気絶させる。そして、両手を後ろ手にしてヒモで縛り、口に粘着テープを貼り、足を持って廊下を引きずっていく(2枚目の写真)。この時に入るシーモンの独白は、「失敗だ。オーヴに捕まった。つけられてたんだ、チクチョー。Skulle ikke tatt fem øre for å lage hakkemat av det jævla flesketrynet!」。悔しいが、後半は、どうやっても訳せなかった。一旦は車の後部座席に放り込まれたが、口のテープを剥がされ、「前に移れ」と命じられる。「くそっ、ひどいことしやがって」。「前に座れ!」。「なんでだよ? ダウンタウンを走る時、後ろの席に縛った子供を置いとくのが怖いのか?」。シーモンは、結構挑発的だ。しかし、結局、強制的に助手席に座らされる。「で、どこ行くんだ?」。「黙れ、さもないと、水道のホースを口に突っ込んで栓をひねるぞ」。「そんなもん、車の中にないだろ。何様のつもりだ」(3枚目の写真)。シーモンは本当に気が強い。「オーヴ、ご本人様だ」。そう言うと、カーラジオを大音量でかける。「こんなうるさいの、聞くんか?」「シートベルトつけてよ〔両手が縛られているので、自分ではできない〕」。2つともオーヴに無視される。そして、オーヴは歌をくちずさむ。「お前も歌え」。「やなこった」。ただちに頭に銃が突きつけられる。仕方なく歌うシーモン。かくして、車はオーヴの部屋に向かって走り出した。
  
  
  

シーモンは、雑多なものが置かれた部屋に担ぎ込まれる。「新しいシャツは気に入ったか?」。「うん、いいよ」。そして、イスに座らされる。「ボビーソックス〔少女用の短いソックス〕、似合うじゃないか」。「僕を何だと思ってるか知らないけど、趣味じゃない」。「お前の希望知ってるぞ。自由になりたいんだ」。「それって、僕を自由にするってこと?」。その時、玄関のドアをノックする音が。「いいか、客が来た、口を閉じてろよ。言う通りにしろ。黙ってろ。また、口にテープ貼られたくないだろ?」。「当たり前だ」。「いいな?」。「分かった」。しかし、オーヴが母親と話していると、シーモンを閉じ込めた部屋から、「ツ」というような音が聞こえる。「ねえ、あれ何?」。「ただの犬だよ」。「犬を飼ってるの? いいわね」。そう言って、シーモンの監禁された部屋に入ろうとするので、オーヴは必死に止める。母が帰った後、オーヴは部屋に入って行くと、シーモンの髪をつかんで、「かん口令は、どうした?」と凄む(1枚目の写真)。「ごめん、口から出ちゃったんだ」。「お前のでまかせには、もうウンザリだ。何でも好きにできると勘違いしてないか? 大人をからかいやがって。結果を理解してないようだな」。シーモンも負けてはいない。「はっきり言ったらどうなんだ。こんなトコに座って、たわごとを聞かされたいとでも、思ってるんか?」。「じゃあ、期待に応えて、分からせてやる。ちょっと待ってろ。『結果』 を見せてやる」。オーヴは大きな金槌を持って戻ってくると、シーモンの口にテープを貼る。そして、「知ってるか、シーモン。俺がガキだった時、一番怖かったのが、足首が砕かれることだった」と静かに話すと、いきなりシーモンの右足首をつかみ、「これが結果だ」と言って、金槌で砕こうとする。シーモンは、体をくねらせて左足で必死に邪魔する(2枚目の写真、矢印の先が金槌)。結局、オーヴは金槌をあきらめる。そして、スーパーのレジ袋を投げて寄こし、「お前の家から服を取ってきてやった。それを着ろ。今着てるのは燃やす」と命じる。さらに、もう一度シーモンの髪をつかむと、「分別だぞ、シーモン、分別だ」と脅す(3枚目の写真)。
  
  
  

服を着替えたシーモンは、ホテルへ連れて行かれ、「クソガキめ」と、ベッドの上に投げ落とされる。両手はテープで固定されたままだ(1枚目の写真、矢印)。「どうだ、怯えきってるな?」。「怯えてなんかいないぞ。てんで、へっちゃらさ。分かっちゃいないな」(2枚目の写真)。不敵というか、大した勇気だ。「お前の一挙手一投足を見張ってるぞ」。「知ってるか? こんなトコ、逃げ出してやる」。「できると思うか? そのうち、2人で、お楽しみといこう。痛いぞ」。「SMなんか、しないからな」。「本物の痛みだ!」。シーモンが「おおこわ」と小バカにして笑うと、オーヴは、シーモンの顔を引き寄せ、「俺をバカにするのは許さん、分かったか!?」と押し殺した声で怒りをぶつける(3枚目の写真)。これで、ようやくシーモンも真顔に。
  
  
  

そして、いよいよ最も残虐なシーンへ。シーモンの口には、今まで使われなかったボールギャグがはめられている。叫び声を出させないためだ。オーヴは、「どうだ、強情じゃなくなったか?」と声をかける。そして、剪定ハサミを持ってくると、「じゃあ、始めるとするか」といきなりシーモンの右足をつかむ。必死で声を出そうとするシーモン。「何か言ったか?」。オーヴは、シーモンのボールギャグを外してやる。「言ってみろ」。「足の指はやめて。バランスがとれなくなって、一生 足を引きずるんだ。『びっこ』って呼ばれちゃう」。「代わりに、どこを切りゃいい?」。「切らなくていいよ」。オーヴは、剪定ハサミを置いてシーモンの口に再びボールギャグをはめると、剪定ハサミを握りしめ、一気にシーモンの右の乳首をえぐり取る。絶叫し(ボールギャグで、呻き声にしか聞こえない)、身もだえするシーモン(2枚目の写真。クローズアップの写真は掲載しない)。しばらくして〔ボールギャグが、粘着テープに変わっている〕、オーヴは、乳首の跡にガーゼを載せ、「終わったな、良かったか?」と訊く〔時間が経っているのに、傷口から全く出血していないのは変〕。シーモンは、強く頭を振って「ノー」と意思表示する。ここで独白:「こいつ、どうしていつも僕を縛ってるんだろう。何とかほどけるといいんだけど」。オーヴは、静かな口調で、「お前は、いい奴だ。もうすぐ死ぬなんて、可哀想だがな。父親もすぐに死ぬし、母親はもう死んでる。地獄で家族に会えるぞ」。そして、テープを剥がし、「言いたいことはあるか?」と訊く。「何もない」、そして、「卑劣だ」(3枚目の写真)。オーヴ:「俺達が生きてるのは病んだ世界だ。お前のやったことを見てみろ。誰もが善人だと思うな」。
  
  
  

2つ目の屈辱的なシーン。オーヴの犯罪仲間で年上のイラン人がホテルを訪ねてくる。オーヴ:「何の用だ。俺 忙しいんだ」。「警察が店にやって来た。分かるか? ガキを捜してたんだぞ!」。「警察? それがどうした?」。「逮捕されたら、どうなると思ってんだ?」。「大丈夫。ドジは踏まない」。そして、イラン人を部屋に入れる。ベッドのシーモンを見たイラン人は、「これは何だ?」と訊く。「あのガキさ」。「そんなことは承知だ。こいつに 何しやがった?」。「ちょっと遊んだだけだ」と答え、シーモンに向かって、「そうだよな、シーモン?」と言う。もちろん、ボールギャグをはめられているので、何も言えない。「小さなガキと遊ぶな。ハサミに、口にテニスボールだと?」。そう言いつつも、イラン人は、持参した麻薬入りの袋をオーヴに見せて、誘う。「いっちょ、やろうぜ」。「いいな」(1枚目の写真)。そして、袋の中の粉をシーモンの胸の上に線上にまく(2枚目の写真)。巻いた紙で順に麻薬を吸う2人(3枚目の写真)。「どうだった?」。「最高だな」。「もう少し時間が欲しい。来週には店に行くよ。それまでには、この生意気なガキの家族から何か巻き上げられるかもしれん」。「いいさ。好きな時に来てくれ」。
  
  
  

事態は新たなステージへ。時間は不明。ホテルの部屋に電話が入る。「ガキはそっちか? 娘とコカインはあるぞ」。「じゃあ、娘をホテルまで連れて来てくれよ」。この両者の関係が、唐突で全く理解できない。①なぜ男はクリスティーンを捕まえたのか? ②オーヴとはどんな関係にあるのか? それに対する答えは映画の中にはない。電話が終わると、オーヴはシーモンに、「覚えとくんだな。ガールフレンドは、街中でお前を捜してたとさ。お前は、二度と会えんがな」と説明し、「じゃあな、俺がお前のちっちゃな娼婦の相手をしてきてやる」と言って部屋を出て行く。一方、クリスティーンはハッチバック車の荷室に詰め込まれて(1枚目の写真)、ホテルまで連れて来られる。オーヴはクリスティーンをスイートルームの応接室に引っ張り込み、ソファに投げ飛ばし、両足をつかんで襲いかかろうとするが、気丈夫なクリスティーンはオーヴの股間を思い切り蹴り上げる(2枚目の写真)。オーヴが悶絶する間にクリスティーンは寝室に入ってシーモンを見つける。「シーモン、すぐ逃げないと、あいつ狂ってる」。そしてシーモンのボールギャグを外してやり、2人はキスする(3枚目の写真)。「愛してるわ」。「僕もさ。ヘアピン貸してくれないか?」〔感謝の度合いが明らかに少ない〕。「ヘアピン?」。「うん、鍵を外すんだ」。この時、シーモンの右手は壁の棒に手錠で固定されていた。「あのねシーモン、私 妊娠してないの」。それを聞いたシーモンは十字をきって、「わぉ、神様!」と大はしゃぎ。「それってサイコーのニュースだよ」。そうした態度にカチンときたクリスティーンは、「少し話があるの」と切り出す。「これまで、あなたすごく自分勝手で、私がどうなったかも訊かなかったわね」。反論しようとするシーモン。「ちゃんと話を聞きなさい。さもないと、これをもう一度口にはめて、サヨナラするわよ」。この脅しには、素直に聞くしかない。「こんな風に考えたの。もし、私たちがこれからも一緒なら、あなたにちゃんと反省して欲しいの。私がどう感じたか分かる? 妊娠して喜んだと思うの? あなたがミッション・インポッシブルやってる間、私は部屋で泣いてたのよ。そんなじゃ困るわ。もっと大人になりなさいよ。もう子供じゃないの」。そして、「じゃあ、言う通りに、くり返すのよ」。「それ本気?」。「僕、シーモンは」。シーモンも渋々くり返す。「自分勝手はやめ、何でもクリスティーンと相談することを誓います。彼女抜きで行動することは絶対しません」。ここまでくり返すと、クリスティーンは、「いいわ、シーモン」と言う。しかし、シーモンはその言葉まで口にする。ということは、ただ機械的に復唱していただけだ。そして、クリスティーンの話が終わるのを待っていたように、「じゃあ、ヘアピンを、鍵穴に差し込んで、右に回すんだ」(4枚目の写真)。そして、手錠から解放されると、「床に落ちてるズボン取ってくれない?」と頼み、ズボンをはく。「これからどうするの?」。「警察と救急車を呼んでくれる? 僕にはやるべきことがある」。「私なしで やれるの?」。「うん、信じて」。クリスティーンは、「これ持ってて。ベッドの下にあったわ。あいつのじゃない?」と、拳銃を渡す。
  
  
  
  

そこに、オーヴが、「腹が空いてると思ったから、これ持って来てやったぞ」と言って入ってくる。これもおかしな話だ。クリスティーンに股間を蹴られてダウンしたら、まず、彼女がシーモンを閉じ込めた寝室に行っていないか探すのが常識だろう。それをシーモンの食べ物を調達に行っていたなんて信じられない。オーヴの声を聞いて、壁に張り付いて隠れたシーモンは、オーヴが目の前を通り過ぎた時、「言われた通りにしろ」と拳銃を突きつける。「下がれ、下がるんだ」「父さんが死にそうなのに、5日も監禁しやがって。どうしてくれる!」。「お前が、俺にしたこと忘れたか?」。「こんなひどいこと、しなかったぞ! このサイコ野郎! ひざまづけ!」(1枚目の写真)。ここで、オーヴは賭けに出る。先ほど吸ったコカインのせいで気分が悪いと嘘をつく。そして、シーモンがそんな話にはお構いなく、「今、殺してやる」と言うと、「最後の頼みを聴いてくれるか? 今、何時か知りたい。死んだ時間を知っておきたいんだ」。「時計なんか持ってない」。「そこの壁にかかってる」。シーモンが後ろを振り向いた瞬間、オーヴが襲いかかり、シーモンの顔を何度も思いきり殴る。そして、拳銃を拾うと、朦朧としたシーモンに向かって、「お休み」と声をかけ、殺そうとする(2枚目の写真)。その時、電話をかけ終わったクリスティーンがドアを開け(3枚目の写真)、オーヴの背中めがけていきなり銃を撃った。その場に倒れるオーヴ。シーモンは、「どうしても、言わなくちゃ」とクリスティーンに言う。「愛してるよ。心からね。未来永劫に」。そして、クリスティーンの手を取って自分の胸に当てる。そして、さっき口先だけで復唱した誓いの言葉をくり返す。それを聞いてクリスティーンも微笑む。
  
  
  

次のシーンには台詞はない。鏡の前で、雪の公園のベンチで語り合い、そしてベッドの中やソファの上で愛し合う2人の姿が描かれる(1・2枚目の写真)。最後は、何事かを話した後に熱いキスを交わす(3枚目の写真)。
  
  
  

ここで、ようやく冒頭のシーンとつながるエピソードが入る。シーモンがトイレに座ってリキんでいると携帯に電話が入る。かけてきたのは、映画監督のルーア・ウータイグ(1枚目の写真)。「ニュースで聞いたよ。信じられないくらいクールな体験だったね。ひとつ映画にしてみないか?」。「本当ですか?」。「ああ、楽しいと思わないか?」。「ええ、そうですよね?」(2枚目の写真)。かくして、監督の依頼でオーネ・バリギレンが脚本を手がけるという設定だ。
  
  

そして、もう一つエピソード。その前に、シーモンの独白が入る。「クリスティーンと、僕の親戚の誰かが誕生日パーティを開いてくれる。だけど、行きたくないな。僕は、パパと2人で家にいたいだけだ。たとえ、パパの具合が悪くても。でも、お祖母ちゃんさえいなけりゃ、あとは、大勢でなきゃ我慢しよう」。その時、また電話が入る。「はい、どなたです」。「市長だよ」。悪い冗談だと思ったシーモンは、「なら。僕は『The King of Queens』だ」〔アメリカCBSで10年間続いたシットコム〕。しかし、それは、当時の本物の市長ファビアン・スタング〔1枚目の写真〕で、シーモンの行動を褒め、父親の手術費への援助を申し出たものだった。シーモンは、幸せそうな顔で聴き入り(2枚目の写真)、「どうもありがとうございます」で電話を切る。
  
  

そして、2日後。シーモンの16歳の誕生日。オスロ都心にタクシーで乗りつけたシーモンとクリスティーン。会場の前に着いてもシーモンは乗り気でない。中に入ると、そこは多くの人で溢れんばかり。シーモンの期待とはまるで逆だ。そして、最悪なことに「お祖母ちゃん」もいる。良かったことは、父と会えたこと。手術前だというのに、すごく元気だ。しかし、父は、「やあ、シーモン、どうだ、元気か?」「2人とも、うまくいってるか?」と訊いただけで、すぐ他の人のところに行ってしまう。雑踏を抜け、トイレに行った2人。クリスティーンが、先ほどの父親の態度を見て、「今日があなたの誕生日だってこと、分かってるのかな?」と訊くと、「いいや、自分を楽しませるために集まったと思ってるのさ」と答える。すると、急にクリスティーンが寄ってきてキスし、「16歳になったら、許されること知ってる?」と謎かけのように言う(1枚目の写真)。「運転免許?」。クリスティーンは、そのまましゃがむと、映像には入らないが、ズボンのチャックを開ける音がする。そして、こらえるようなシーモンの顔(2枚目の写真)。折角の行為の邪魔をしたのは、ドアをドンドン叩いて「シーモン?」と訊く祖母の声〔シーモンが会いたくないのは、もう1人の祖母〕。ドアを開けたシーモンに、祖母は、「誕生日、おめでとう」「大変だったわね」と声をかける。父親より、よほどしっかりしている。その時、クリスティーンも笑顔で顔を見せる(3枚目の写真)。「まあ、2人で、トイレにいたの?」と驚いた祖母だったが、そこは進んだ国の進んだ祖母。「恥ずかしがらなくて いいのよ。16歳になったら、エッチしてもいいんだから」とおっしゃる。この時使われた「kåt」という言葉には、「エッチする」のほか「むらむらする、わいせつなことをする、セックスする」などの意味しかないので、非常に進歩的なアドバイスだ。祖母は2人と別れた後、シーモンの父と出会う。挨拶を交わした後、「こんな所で何してるの?」と父親に訊かれ、「今日はシーモンの誕生日でしょ。だからいるのよ」と答え、父を慌てさせる。「今日だったっけ?」。「もちろんよ」。「しまった」。
  
  
  

一方、そのままトイレに戻った2人。「さっきは、邪魔が入っちゃったな」。「リラックスして。続きをやるから」。そう言って、クリスティーンがスボンの前を開ける。その時、ハッと気付いて、「待って、コンドーム持ってる?」と訊く。「大丈夫。抜いてから 射精する」。「私、熱くなれるかな?」。「わかんないよ」。クリスティーンは「しーっ」と言って、指でシーモンの唇を押さえたところで(1枚目の写真)、場面はパーティ会場に転換する。そこでは、進んだ祖母A、ボケて頑固な祖母Bが話し合っている。B:「何も食べるものがないわね」。A:「いつも愚痴ばかり。聞き飽きたわ」。「どうせ、ひねくれ者ですよ」。「当たってるわね」。「そんなに食べちゃダメ、食が細いんだから」。「食べるものなんかないじゃない」。ここで、3度目のトイレシーン。コトは終わり、クリスティーンはぐったりし、シーモンはトイレットペーパーをズボンに詰めている。シーモンの顔を見上げるクリスティーンの表情がいい(2枚目の写真)。2人はトイレから出て、2人の祖母の前に現われる。A:「あら、シーモン」。B:「誰だったかしら? シーモンなの?」。シーモン:「僕、シーモンだよ、あなたの孫の」。B:「それで あんたは?」。「僕のガールフレンド」。「その年で、ガールフレンドかい?」。A:「もう16歳なのよ」(3枚目の写真)。シーモンが会いたくないハズだ。最後に、これが息子の誕生日パーティだと知った父親がスピーチする。「シーモン、誕生日おめでとう。いつもはプレゼントを渡してたが、今年は、丸1週間、お前と一緒に過すことにするよ。気に入ったかな?」。これには、シーモンも大満足。しかし、手術の方は大丈夫なのだろうか? もっとも、「死にそう」には全く見えないが。
  
  
  

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